「第三陣、撃てー!」
ドン! ドン! ドン!
花から少し距離が離れた建物から、砲撃が何発も撃ち出された。
スドーン! ドオォーン! ドゴォーン!
空を駆けた鉛玉は着弾し、土煙を巻き起こした。振動でツタが動き、花弁が風で揺れる。
何度砲撃を受けても、強靱な植物のツタは傷付くことなく、倒れ伏すこともない。
エネルギーを感知して捕食行動を起こす植物は、自ら寄ってきた小さくも大量の群れへと細い蔓を幾本も伸ばした。
「蔓が動いた! 防御陣展開! 放てー!」
小さな筒が数個、植物の方角へと放物線を描き飛んだ。それが地面へと接触した瞬間。
ドパパパパッ!
数百の針が筒の中からはじけ飛び散った。
針は細い蔓を突き刺し、千切り、貫通した針は植物や地面に貼り付けにした。
そうして身を守り、移動できない植物と距離を保ちながら、自分たちの最大火力でもって駆逐しようとしていた。
「随分とまあ古めかしい装備だが。一応、頑張ってはいるんだなぁ」
しばらく上空で観戦していたガルハッタだが、やり取りのパターンを理解した後は拍子抜けとばかりに肩を落とした。
他の星ではあまり見なくなった古い銃火器を物珍しく見ていたが、ロマンこそ感じるものの、あまり実用性は無さそうだった。
バリアを張って高度を落とし、紫の花から宝石を力任せにむしる。すると紫の花が急速に枯れて。
バァアーン!
茎が三叉に引き裂かれたかのように破裂し、中から大量の種が撒き散らされた。奇しくも、武装兵が使っていた筒爆弾と同じ手法である。
「せめて黒以外の色があれば楽しめるんだが」
ガルハッタがため息をつく通り。
大量の種はバリアを貫通できずに、視界を黒く埋め尽くしたと同時に燃え尽きてしまう。
彼にとっては、ただのこけおどしだった。
「おい! Dr.ドクヒルを連行したんだろう! この花の弱点はまだ聞き出せないのか!?」
武装兵が並ぶ列の後衛で、そんな声が飛んだ。
生物の遺伝子を調べ、組み合わせ、人工的に生み出し作り上げる。この惑星の中でも随一の頭脳を持ち、しかし歪んでいる科学者。Dr.ドクヒル。
数時間前に彼の隠れ家への突入命令が下り、ようやく身柄の確保に成功したのだ。
この星を蝕んでいる巨大な花。その生みの親。
「申し上げます! Dr.ドクヒルが逃走しました! 行方がわかりません!」
「なんだと!? 縛り上げていたはずだろう!」
「いつの間にか、縄を残して姿が消えており……」
「探せ! 花の殲滅が終わり次第、彼は処刑となっている!」
「はっ!」
探索命令のために数人の兵が周囲へと散らばり、ひとり残った兵は静かに奥歯を噛み締めた。
「花だけでなく、サイヤ人のような子供も作っていたんだ……! ここで逃走を許し、新たな脅威を作られては敵わん……!」
隠れ家の地下に踏み込んだ兵は、培養槽の中で目を開けていた黒髪の子供を見た。その培養槽を撃ち抜き、ガラスが砕け、黒煙に包まれる姿まで認めたのだ。
「……あのような存在を作り出す人間など、この世に在ってはならない……!」
兵は決意を秘めた瞳で対峙する花を見やり、拳を強く握りしめた。
「あ、良かったー! 無事だ!」
兄弟が宇宙船で着陸した場所に向かえば、自分たちの船は寸分違わず同じ場所に鎮座していた。
リモコンでエンジンを動かせば、同期されている笛の音がぺぺぺぺ~と鳴り始める。
「そろそろ他の曲に変えたいな~」
「そうだな」
プシューと音を立てて開いた搭乗口から中へ乗り込み、二人は手早く離陸準備を始めた。
「兄ちゃん、このまま脱出する?」
「駄目だ。飛行機を回収しに行かないと。あと迎えに行く。あの宝石をもらえなきゃ大損だからな。捕獲した花はちゃんと持ってるか?」
「ポケットにあるよ、四つとも」
「商品箱に入れとけ。また無くすぞ」
「わかった」
兄は操縦桿を握り、操作盤を見やった。
ピコンピコンと光が瞬き、通信機器に反応が残っている。
「誰かから連絡が来てる」
弟は近場に設置してある頑丈な箱を開けて、中に四つの青いカプセルを丁寧に安置した。未使用の五つ目のカプセルは迷った末に、ポケットへと戻す。
「げっ!」
「兄ちゃん?」
片付いた後は兄の隣の席に着き、弟はベルトを締めた。
「フリーザ軍から通信が入ってる……」
「えっ」
「な、なんだろう。最近なにかを売った覚えもないし……」
「……注文とか?」
「かもしれない……。と、とりあえず折り返しの連絡をしてみる……。うっ、緊張する……」
「兄ちゃんファイト!」
震える指でスイッチを押した。ピピピピと接続音が響く。
ただの下請けの下請けの下請けにフリーザ軍が何の用事だろうか、と動悸がする胸を押さえて応答を待った。
プップップッと通信機器が点滅した。受信の合図だ。
「通信です。発信場所は――惑星コスラ。先ほど通話を試みた、あの兄弟からのようです」
「おや。早かったですね。繋げなさい」
冷静で事務的な報告に、厳かな声が答える。
浮遊した椅子に乗り、堂々とした佇まいでその空間を支配しているその姿。
宇宙の帝王として恐れられている存在。フリーザ。
優しげな声音にすら圧倒的な威圧感を漂わせ、周囲に配置されている部下ですら、彼の一挙手一投足に神経を研ぎ澄ませる有様である。
『ご、ご連絡ありがとうございます! 星間商売人のイコンとトスです! お待たせしてしまい申し訳ございません!』
「いえいえ、気にしてませんよ。むしろ早いくらいでした」
『あっ、ふ、フリーザ様……!? ああああの、ご寛大なお心、ありがとうございましゅ!!』
「ふふふ」
(……小気味良いくらいの虫ケラだ)
フリーザは、この兄弟をそう結論付けた。今から行われる計画にちょうどいいと自らの考えにほくそ笑む。
「ところで本題に入りたいのですが。今、あなた方は惑星コスラにいらっしゃるそうですね?」
『は、はい!』
「そちらの惑星ではクローン技術が盛んに行われているらしいですね。そして……私が小耳に挟んだ所、サイヤ人のクローンにも手を伸ばした、とか?」
『えっ。……サイヤ人……?』
「知りませんか? 黒髪黒目の、獣の尻尾の生えた凶暴な種族です」
『……………………あっ』
「その様子だと知っているようですね。もしや、出会いましたか?」
『あ、あの…………はい』
通信先からの言葉に、フリーザは口角を吊り上げた。予想以上の収穫だった。
「ほお! では、サイヤ人のクローンがどんな人物か知っているのですね? 人数はわかりますか?」
『お、おれ達が会ったのは、小さな子供のサイヤ人、ひとりだけです……』
「なるほど」
(子供……それはますます好都合)
更に笑みを深めるフリーザの様子に、密かに耳を澄ませていた部下たちは冷や汗を流した。
絶滅危惧種となったサイヤ人、その生き残りは全てフリーザ軍に所属している。
サイヤ人がそこまでの少数になった理由を知っていたるフリーザ軍の幹部たちは、フリーザが口にするだろう言葉を想像して目を細めた。
「では、あなた方にお願いがあります」
優しく、しかし望むのはたったひとつの言葉。
通信越しでも感じるその威圧感に、イコンとトスの兄弟は逃げられないことを悟った。
「遅いな、あの兄弟」
周囲の宝石をあらかた採取し終わったガルハッタは、枯れて萎びた植物ばかりが広がる大地を眺めながら待機していた。
故障した小型飛行機の装甲に座り待っていたが、走って宇宙船に向かった兄弟は未だに戻って来ない。
(……兄弟の気は宇宙船に到着してるみたいだが、移動する様子がねぇな。なにをしてんのかね)
二人だけで逃げ出したのかと思ったら、一歩も動いていない。
(宇宙船が故障でもしたのかね? まぁ、それはそれで構わんが)
ガルハッタは立ち上がり、すぐ傍で眠りこけているブロリーの様子を窺った。変わらず眠ったままで、たまに眉根を寄せるも起きる気配はない。
「……普通に背負ってパラガスへ届けに行っても良かったな」
瞬間移動で連れて行こうかと考えていたのだが、現在地とパラガスがいる場所は相当離れているらしく、気の探知に引っ掛からなかった。パラガスの気を察知できなければ瞬間移動はできない。
花の蔓が届かない場所で寝かせておけば、目覚めた時に自分で帰還するだろうと算段をつけたのだが。
「今更か。今から移動するとすれ違いになるかもしれんしなぁ」
小型飛行機から上空へ浮遊し、ガルハッタは少し離れた花の元へと移動した。
宝石を採っていない紫の花からは、甘い香りと瑞々しい透明な果実がはちきれんばかりに主張している。ガルハッタがいくら近寄ってもツタは動かず、周囲の白い花は蔓を伸ばそうともしない。
(やはり宝石が鍵か……。この宝石に花のエネルギーが詰まっていて、それを所持している俺を仲間だと誤認している?)
懐から宝石をひとつ取り出して、白い花に近付けてみる。すると白い花は宝石を避けるように遠ざかった。まるでぶつからないように場所を譲ったかのような動きだ。
(面白いな、この生態。白い花が外部からエネルギーを吸収し、紫の花が蓄積する。そして紫の花から周囲の花にエネルギーが分散され栄養になる。ってところか。となると……)
興味本位に、地面に根付いていたツタを引き剥がして切断を試みる。
手のひらに気を溜めて、それを刃の形へと変換。対象を切断できるほど鋭く、そして――斬る。
攻撃性を高めるのは初めての試みだったが、存外うまくいったようだ。
綺麗に両断できたツタの中身を覗き、ふんふんと納得と仮説と確認を繰り返す。
「なるほど、そういう。一掃もできそうだが、宝石を採取できれば利用もできる、と」
スピリットエネルギーが関係する物事には時間を忘れて没頭してしまうのが、ガルハッタの生前からの悪癖であった。
「遅い。ブロリーはいったい何をしている」
獣は全て捌き終え、宇宙船内の食料庫に片付けた。水も補給し終わった。
あとはブロリーが戻ってくるだけ、という状態でパラガスは待機していた。
「まさかとは思うが、噂の花に捕まったか? ……いや、ブロリーならいくら巨大な花でも相手にならないはず。……あの子供と出会ったか?」
パラガスの懸念は、ブロリーに似たサイヤ人の子供に向けられていた。
ブロリーに対しての心配はない。しかし、あの子供の口車に乗せられる可能性はあった。
(サイヤ人の子供とは思えぬあの落ち着きよう……。サイヤ人なら、格上の相手に捕まったらどんな状況でも抗うはずだ。尻尾を掴まれていたとはいえ、そんな様子が一切なかった)
無造作に放置していた情報を精査し、頭の中で整理する。
(理性的な目。暴れもせず、静かに立ち去った。あれはそう、ガルハッタがたまに使っていた瞬間移動という移動方法によく似て……)
――ガルに似た気を探していたら、こいつが――
「…………ガルハッタが死んだのは七年前。あの子供は5歳ほどだった」
パラガスの中で、何の変哲も無い情報が嫌な繋がり方をした。
「……計算は合うが、しかし……。そんなことが有り得るのか?」
ただの杞憂かもしれない。妄想と笑い飛ばすほどの馬鹿馬鹿しい結論だ。けれども、ブロリーの感覚を、なにより自分自身の考えを、パラガスは切り捨てることはできなかった。
「――確かめに行くしかない」
組んでいた腕をほどき、バサリと白いマントを翻した。
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2026.01.25